優しかった皆川先生

 小学校4年生のときでした。
 テストの点数があと五点で百点だった。その五点で職員室に呼ばれました。
 担任の皆川先生は女性で小柄な方でした。
「省ちゃんは授業中何を聞いてたの?弁慶がつぶやいたセリフがあったでしょう?ほら、あと一本で何本とか、ほら、ほら、ほら〜」
 思い出しなさいと言っています。
 答えは「千本」だと先生から聞いていましたが、嘘だと思っていたので書かなかった。
「答えは〜千本でしょう、九百九十九本かついで牛若丸を待ってたの。そこへ立派な刀をもった牛若丸が横笛を吹きながら現れるのよっ、弁慶はその刀が欲しくて欲しくてたまらないの、弁慶は、「そちの太刀をいただく覚悟せえ」と言ってね」
 先生は、よほどこの物語が好きらしく役者になりきっている。鯉口を切る真似する
 そばの校長先生新聞を読んでいて、
「んふ、んふっ」
 と、小咳をする。
 皆川先生は、はっと我に返り。
「答えは千本でしょう」と、
 わたしは。
「嘘だと思います、九百九十九本も重くて、かつげるわけがないと思います、刀一本が一キログラムだとしても千キログラム、千キログラムは一トンですから、うちの農耕馬が約七百キログラムありますから人間ではとてもとても重くて背負えるものではないと思います。」
 校長先生は、笑って首を縦に振っている。
「あら、あら〜省ちゃんち〈家)の農耕馬は関係ないのよ、とにかく弁慶はたいへんな力持ちだったのよ〜力道山よりも。先生がそう教えたでしょう」
 と無理に納得させていただきました。
 その後先生は、「千本」と書いて百点にしてくれたやさしい先生でした。
 皆川先生あの時はありがとうございました、先生が私の担任でなければ今頃『歴史は嘘っぽい』をやっていなかったと思います。

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